相続について夫婦で話し合っておくこと

― 知っておきたい基本と遺言書の重要性 ―

 相続について考えるとき、多くのご夫婦が 「残された配偶者が、これまでどおり安心して生活できるようにしたい」 とお考えになるのではないでしょうか。そのために「自分の財産はすべて配偶者に相続させたい」と思われる方も少なくありません。
 家族、親族の関係が円満で事情をよく理解している場合であればほとんどの場合問題ありませんが、その思いが遺言書がなければ実現できないこともあります。
 ここでは、ご夫婦の思いを実現させるために、相続の基本と配偶者に財産を遺すために遺言書がなぜ重要なのかを、できるだけ分かりやすく解説します。 (※なお、遺産額が高額な場合には相続税の検討も欠かせません。税務については専門家へのご相談をおすすめします。)

遺言書がない場合は通常、遺産分割協議を経て相続分を決定するようになります。協議において特別な事情が考慮されない結果となってしまうと、法定相続分が判断基準になってしまいます。この場合は下記に示す通りで、時には配偶者の生活に影響することも考えられます。

子供がいる場合

  • 配偶者:2分の1
  • 子供 :2分の1 (複数人いる場合はその頭数で均等割)

子供がいない場合

  • 配偶者:4分の3
  • 被相続人の兄弟姉妹:4分の1  (複数人いる場合はその頭数で均等割)

※ 兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合、その兄弟姉妹に子がいれば一代限りで代襲相続が認められます。
※ 配偶者の兄弟姉妹は相続人にはなりません。

 特別な事情を法的効力を実現させるためには、遺言書が不可欠です。
「すべての財産を配偶者に遺したい」との意思を実現させるために遺言書を作成すれば、遺産分割協議は必要なく、その遺言内容が法的に優先されます。
 例えば、遺言書に 「妻〇〇に、遺言者の所有する一切の財産を相続させる」と記載すれば、法律上有効となり、原則としてその内容どおりに相続が執行されます。さらに「一切の財産」に関する不動産や預金口座等を具体的に記載すれば、相続後の手続等で相続人の混乱を防ぐことができます。

◇法定相続分を超えるときの子供の理解

 このケースのような法定相続分を超える遺言内容の場合、子供には「遺留分侵害額請求権」を行使して、遺留分として定める金額を金銭で請求することができます。この場合の子供の遺留分は、「法定相続分(2分の1)の2分の1」で4分の1、子供が複数人いる場合はその頭数で4分の1を均等割した金額になります。(※ 子供がいない場合の兄弟姉妹の相続人は、遺留分はありませんので、請求されることはありません。)

 このような遺留分を請求するような事態となることなく夫婦の思いが伝わるよう、生前から家族でよく話し合い、配偶者の特別な事情について子供の理解を得ておくことがとても大切です。

 法定相続分を超える内容の遺言や、感情が絡みやすい相続では、「自分にも権利があるのではないか」、「血縁関係があるのに納得できない」といった思いから、金額以上に話がこじれてしまうことがあります。

 そこで大切なのが、遺言書の「付言事項」です。付言事項には、「配偶者への感謝の気持ち」や「その分け方にした理由」などを書くことができ、相続人への配慮を表すことができます。この一言があるだけで、相続人の受け止め方が大きく変わり、特別な事情の理解に繋がり、無用な争いを防げるケースも少なくありません

 子供のいないご夫婦の場合、特に注意したいのが二次相続です。例えば、夫に先立たれた妻がその後亡くなった場合、 妻の相続人は妻自身の兄弟姉妹になります。(※ 亡くなった夫の兄弟姉妹には相続権はありません。)
 もし「夫の兄弟姉妹にも財産を渡したい」と考える場合は、 相続ではなく『遺贈』として遺言書に記載する必要があります。

◇遺言が失効することもある

 遺言者が高齢の場合、ほとんどの場合兄弟姉妹も高齢であるため、遺言者より先に亡くなることもあります。例えば、「弟〇〇に財産を相続させる」と遺言書に書いていたものの、その弟が先に亡くなっていた場合、 その部分の遺言は失効してしまいます。たとえ弟に子がいても、自動的に代襲相続にはなりません。 「弟の子に引き継がせたい」という思いがあっても、 遺言書に明記されていなければ、意思どおりにはならないのです

 このような遺言の失効を防ぐために重要なのが、予備的指定です。予備的指定とは、 「相続人が遺言者より先に亡くなっていた場合の、次の受取人」 をあらかじめ遺言書に定めておく方法です。
 例えば「相続人〇〇が、遺言者より先に死亡した場合には、 〇〇に相続させるとした財産を、その子△△に相続させる」と記載しておくことで、 ご本人の意思を確実に次の世代へ引き継ぐことができます

 遺言書の作成は、単に財産を分けるためのものではありません。

  1. 残される配偶者の生活を守るため
  2. 家族間の無用な争いを防ぐため
  3. ご自身の思いをきちんと伝えるため

に、とても重要な役割を果たします。

 遺言書の作成や内容について不安がある場合は、どうぞ早めに専門家へご相談ください。